藤間秋男の老舗企業訪問

第4回

株式会社にんべん

13代目 代表取締役社長髙津伊兵衛

伝承と創造の融合

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だしにこだわり続け322年

※掲載情報は取材日時点のものです(2021年12月)

「創業322年のにんべん」は日本人なら知らない人がいない鰹節の専門店として有名。だしにこだわり続ける老舗は、本枯鰹節が江戸時代にできてから特にこだわり続けている。
本枯鰹節とは、カビを何度もつけて熟成し、水分を枯らしていくことにより甘みが凝縮してよりおいしくなる鰹節のこと。にんべんはその本枯れ鰹節にこだわり、いまに至っている。
世の中では手軽に楽しめるさまざまなだしが主流となり、家庭で鰹節を削る習慣がなくなったことから、かつてのにんべんに危機が訪れた。
鰹節にこだわりを持つにんべんは、業界に先駆けて「パック入りの削りたての鰹節」を開発して家庭に見事に浸透させた。

伝承と創造の融合

にんべんは、これまでの道のりの中で、このようにだしにこだわり続けて、「フレッシュパック」や「つゆの素」を開発してきた。
13代目の高津社長も、だしへのこだわりを続け、新たな商品の開発に取り組み、これまでにないだしパックや、速水もこみちさんと共同開発した「だしとスパイスの魔法」で、だしにこだわる伝承と創造の融合を図っている。

日本橋だし場

2010年にオープンした、だしの店 “日本橋だし場” は「一汁一飯」をテーマに、鰹節から始まる健康生活としてテイクアウト中心に提供している。
ここにも、だしへのこだわりがある。

そしてだし場は現在、かつお節だしの奥深さを味わう和ダイニングの “日本橋だし場はなれ” も展開。
鰹節のうま味を活かした料理の数々も提供している。

歴 史

元禄12年(1699年)創業者の初代髙津伊兵衛は小舟町で開業。
享保4年(1720年)に日本橋瀬戸物町(現室町2丁目)へ移転。現在の本社位置となる。



にんべんの社名



店の屋号の伊勢屋と、伊兵衛のイ(にんべん)をとり、商売をするための金(かね)と合わせて「カネにんべん」とした。しかし、江戸の町民は屋号の伊勢屋ではなく「にんべん」「にんべん」と呼ぶようになり、いつしかにんべんを社名とするようになった。
江戸の町民に命名された社名である。



にんべんには3つのイ(にんべん)表すもの

・1つ目は鰹節を使うお客様
・2つ目は鰹節を作る人
・3つ目が鰹節を商う人
この3つの信頼関係ができたときに商売が成り立つ、という考えを現社長も大切にしている。

現金掛け値なし

初代は、享保5年(1720年)に「現金掛け値なし」の看板を掲げ、商売をするようになり、それまでの掛け売りから現金商売に変えていくことにより町民から喜ばれ、商売のリスクもなくなった。
初代から積極的に時代の流れに対応している。

商品券の発行

天保のころ(1830年頃)に商品券を発行した。
商品券は、先にお金をいただき商品券を発行して、あとから商品券で買い物をする仕組み。「現金が先に入ってくるため、当時もキャッシュは潤沢にあったそうだ」と髙津社長は語っている。

江戸から明治での危機

江戸末期、御用金を納めていたために、全て貸し倒れとなる危機に見舞われたが、このとき、商品券でのキャッシュが潤沢にあったことで救われている。
時代を読む目があり実行したことの意義は大きい。



大震災により店舗を消失

その後、1923(大正12)年9月1日の関東大震災により、店舗を消失した。
言い伝えによると、店舗は火災に強く、江戸の大火でも焼けなかったそうである。それにあやかって、正月の門松の松の葉は、火除けの松として町の人たちが持っていってしまったそうである。

襲名

13代目髙津伊兵衛 代表取締役社長は社長就任は2009年創業310年の時に就任した。
襲名はどこでも喪があける1年後に行うのが一般的であるが、身内に不幸があったりして延び延びになっていた。
ちょうど320年を迎えたころ、榮太樓の当時の相談役から「襲名はした方が良い」と手紙が届く。手紙と一緒に、相談役が襲名した時の挨拶状のコピーも入ってので、「これはもうさすがに襲名した方がよい」と思って襲名したそうだ。
襲名は2019年となった。

事業承継

子息にも「にんべんとはどういうことをやっているか?」を小さい時から見せて、洗脳とまではいかないものの、彼がこうやりたいとか、にんべんが好きだという気持ちになるように、機会あるごとに見せるように、なるべく考えてやっている。

藤間秋男からひとこと

髙津社長はご自身も先代からより小さい時からにんべんに関わる事を刷り込まれてきたが、大学に入るときににんべんを継ぐのかと問われ「継がないなら出ていけ」と言われたという。
こうして必然的に継ぐ事となった。
髙津社長も息子さんにはにんべんに馴染ませているという。
事業承継とはいつも私は思うのだが次の代が継げるようないい会社にしておかないといけないと思う。

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